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「お嬢様」
エルシーが、たしなめるように言うと、アイリーンは
「言わせてちょうだいよ。
あなたの前だけなのよ、本音を言えるのは」
と、大きく息を吐き出しながら言った。
エルシーは目を丸くして、しばらくアイリーンを見ていたが、ふっと目を細めると
「それは、嬉しいお言葉です。
メイドとして誇りに思います」
と、わざとらしく腰を屈め、深くお辞儀をした。
「やめて」
アイリーンは笑って顔を上げさせると、胸元で輝く首飾りに、そっと触れた。
青い宝石が細かい光を放ち、角度を変える度に、寄せては返す波のように輝く。
しかし美しく輝いてはいても、触れば冷たい宝石。
それに指を這わせながら、アイリーンは、ふと思った。
裕福な家に生まれ育った自分の人生も、他人から見れば羨ましいばかりに整い、輝いて見えるだろう。
まるで、この宝石のように。
それでも一歩、中に入ってみれば、その実態は美しいものじゃない。
思い通りにはいかず、決められた道でしかない。
冷たく凍りついて、とかすことなどできそうにない。
まるで、この宝石のように。
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