90人が本棚に入れています
本棚に追加
「『期限がきたら、あなたは私のものになる』とでも条件をつけられたのかしら」
アナベルの言葉に、ジョンは目を見開いた。
「知っていたのか」
絞り出した声が、かすれている。
アナベルの笑顔は少しも揺らがない。
一部の隙もない美しい顔が、あまりに恐ろしくて、アイリーンは背筋が凍る思いだった。
「あなただって、まさか無条件だなんて思っていなかったでしょう。
それに、条件を提示されて、承諾したのはあなた自身よ」
「……人魚に会ったのは、船が沈んで命からがら無人島に流れ着いたところだったんだ。
期限付きとはいえ命が助かると言われれば、誰だって承諾するさ。
おまけに、目的だった人魚の魔力も手に入れられるんだからな」
「そんな話、聞いてないぞ」
ロビンが言うと、ダグラスも
「聞いていた話とは随分違うようだな」
と鋭い視線を送る。
アイリーンは何も言わなかったが、それは全てを受け入れたということではなく、言葉の一つ一つを呑み込むので精一杯だったからだ。
ジョンはアイリーンの瞳が混乱に揺れているのを見逃さず、すがるように彼女を見た。
「だって、そうでも言わないと俺だけ見捨てるつもりだっただろ。
仕方なかったんだ」
と、ほとんどアイリーン一人に言い訳にするように、まっすぐ目を向けてくる。
その見開かれた目は真剣そのもので、とても嘘をついているようには見えない。
彼の必死な様子を見ていると、反論しようという気が不思議と溶けていくようだった。
最初のコメントを投稿しよう!