取引

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「『期限がきたら、あなたは私のものになる』とでも条件をつけられたのかしら」 アナベルの言葉に、ジョンは目を見開いた。 「知っていたのか」 絞り出した声が、かすれている。 アナベルの笑顔は少しも揺らがない。 一部の隙もない美しい顔が、あまりに恐ろしくて、アイリーンは背筋が凍る思いだった。 「あなただって、まさか無条件だなんて思っていなかったでしょう。 それに、条件を提示されて、承諾したのはあなた自身よ」 「……人魚に会ったのは、船が沈んで命からがら無人島に流れ着いたところだったんだ。 期限付きとはいえ命が助かると言われれば、誰だって承諾するさ。 おまけに、目的だった人魚の魔力も手に入れられるんだからな」 「そんな話、聞いてないぞ」 ロビンが言うと、ダグラスも 「聞いていた話とは随分違うようだな」 と鋭い視線を送る。 アイリーンは何も言わなかったが、それは全てを受け入れたということではなく、言葉の一つ一つを呑み込むので精一杯だったからだ。 ジョンはアイリーンの瞳が混乱に揺れているのを見逃さず、すがるように彼女を見た。 「だって、そうでも言わないと俺だけ見捨てるつもりだっただろ。 仕方なかったんだ」 と、ほとんどアイリーン一人に言い訳にするように、まっすぐ目を向けてくる。 その見開かれた目は真剣そのもので、とても嘘をついているようには見えない。 彼の必死な様子を見ていると、反論しようという気が不思議と溶けていくようだった。
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