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ダグラスの顔が、こわばっていく。
とても直視出来なくて目をそらしそうになるのを、必死に堪えて、まっすぐに見返し続けた。
「おかしなことに付き合わせたのは、悪いと思っています。
本当にごめんなさい。
でも、ここで帰るわけにはいかないわ」
と早口に言って大きく息を吐き出すと、ダグラスも全く同じタイミングでため息をついていた。
呆れられているのだろうと思うと悔しい気もしたが、今更彼の顔色を窺っていても仕方がない。
そう自分を励まして、余裕のある表情を何とか作り続けた。
ところが、不意に耳元で
「ありがとう」
とジョンの囁く声が聞こえてきたかと思うと、頬に彼の唇が触れるのを感じたせいで、あっという間に張りぼての余裕は崩れ去ってしまった。
驚きのあまりほとんど飛び上がるようにしてジョンを見ると、彼は満面の笑みを浮かべてアイリーンを見下ろしていた。
「べつに、お礼を言われるようなことじゃないわ。
私は自分の目的の為にやってるだけだもの」
と独り言のように呟きながら、慌ててジョンから体を離そうとするも、ジョンはいつの間にか腰に回してきた手を離そうとはしない。
もうすっかりジョンのペースに乗せられてしまっていると分かってはいても、そこから抜け出す術が分からず、ただ熱を帯びた頬を隠しながら、ジョンから顔を背けることしか出来なかった。
ふと、じっとダグラスがこちらを見ていることに気が付くと、アイリーンは取り繕うように姿勢を正した。
「コリンズさん。
あなたにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないわ。
ここから先は私たちだけで行きます」
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