プロローグ

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やがて、どこからともなく歌声が聞こえてきた時も、誰ひとり頭を上げることができなかった。 美しく響く女の声。 それが一つ二つと増えて重なり、いくつもの和音を作り上げていく。 ゆっくりと水面に、頭がひとつ現れたのを、男達は見た。 続いて二つ、三つ。 濡れて額に張り付いた髪をかき上げる細い指は、この世のものとは思えぬほどに白い。 長い黒髪が首に肩にまとわりつくのを、慣れた仕草で払いながら、女はゆっくりと浜辺に近づいてきた。 が、砂の上に乗せたのは、白く細い足ではなく、青いうろこで覆われた魚の尾。
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