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それが合図だったかのように、ひとり、またひとりと、女たちは次々に男たちの力を奪い取っては、共に海に消えていく。
しばらくするうちに、とうとう残りは、男が一人いるきりになってしまった。
が、その男の元にも、容赦なく女が近づいてくる。
頭に毒々しいほど赤い色の花をさした女は、腰まで伸びた黒髪を手で払いながら、ゆっくりと近づいてくる。
この男もほかの男たちと同様、逃げ出すほどの元気は残ってはいなかった。
それでも男は、女が目の前で動きを止めると、声を振り絞って言った。
「帰れよ。もう、お前たちの仕事は終わっただろ」
思いがけない言葉に、女は眉を上げた。
が、ひるむことなく腕を上げると、男の頬に手を添える。
女の眼差しは冷たく、見つめられているだけで凍えてしまいそうにさえ思える。
それでも男は恐怖の色を浮かべるどころか、わずかに唇の端を引き上げさえした。
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