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「人魚か。
海の死者たちをつれていくのが、お前たちの仕事だろ。
でも、よく見ろ。
俺はまだ生きてるし……当分は死ぬ予定もない」
と、かわいた笑い声を上げて、自分の体を誇るように右手で指し示して見せた。
揺れた指先から、砂がパラパラと落ちる。
男は砂が付いていることに、たった今気が付いたというふうに目を見開いて腕を振ると、砂を払い落とした。
しかし、砂の上に横たわっているのだから、そんなことをしても何の意味もない。
真っ白だったはずの男のシャツも、艶のある黒髪にも、砂がまとわりついてしまっている。
女は男を頭からつま先まで眺めて、言った。
「そんなに意地を張らなくても。
もうすでに、魂は半分……半分以上、体から出ているわ」
「残っている半分も、お前が吸い出してくれるってわけか。
そんなの願い下げだね。
俺には、まだやらなきゃいけないことがある」
男はきっぱりと言った。
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