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--"すまない、朱羅"
それは古い記憶。
けれども、彼女がそう言って謝った『あの日』の事を、彼は忘れない。
--"私は、あの者と交わした約束を守りたかった。ただ、それだけだった"
人前で涙を見せる事を嫌う彼女が、目に一杯の涙を溜めて、静かに言葉を紡いでいた。
--"もう、何処へも行けぬ。…そなたの元へも戻れぬ"
悲しそうに告げた彼女を、彼はその腕にかき抱いた。
「いくら悔いても、戻れぬ日がある。…そなたを見ていると、あの頃と同じ定めが待ち受けているのではないかと…私は恐くなる」
追憶の残像を打ち消すように、瞼を下ろし、朱羅は深く息をついた。
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