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辛うじて喉を通るのは、わずかな水だけだ。
「御前、何か少しでもお召し上がり下さい。お望みの物があれば、何なりと揃えます」
「―――やめて」
あやめが少し強めの口調で朱羅を制した。
「そんなに私に気を遣ってくれなくて良い。それに…」
言いかけて、一旦言葉を切った。
何かと問いたげな視線から、ふいと目を逸らす。
「…その呼び方は、嫌いだ」
ハッとしたように、美しい鬼は少女の顔を見た。
唯一無二と崇める主の中に、いまだ葛藤がある事を彼は知っている。
魂は一つ。
だが、その心は二つ。
雪花御前という鬼としての心。
そして、水無瀬あやめという人間の少女の心。
鬼として覚醒した今もなお、二つの心は相いれず同じ肉体の中に共存している。
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