孤独の幻影

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しかし彼は怯む事なく、真っ直ぐにあやめを見て続けた。 「こんなふうにする為に、あなたを目覚めさせたのではありません。あなたをみすみす弱らせるような真似が、私に出来るとお思いですか?」 あやめが怪訝そうに眉を寄せる。 「叶えて差し上げる、と申し上げているのです。あなたがそれを望むのであれば、いかに難しい事であっても」 その言葉にも、眼差しにも、少しの疑いの余地もなかった。 それが心からの言葉であると分かりながら、いや、分かるからこそ、あやめは不思議に思っていた。 何故だろう、と。 何故、彼はこんなにも自分に良くしてくれるのだろう。 それはこの半年間、問う事も出来ないまま、ずっと疑問に感じていた事だ。
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