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覚醒したからといって、雪花であった頃の全てを思い出したわけではない。
誰だって生まれてから今日までの膨大な記憶を、忘れる事なく全て持っているなんて不可能だろう。
それと同じ事だとあやめは思った。
まして千年以上も昔の記憶など、思い出せという方が無茶だ。
「朱羅…、そう言ってくれるのは嬉しいけど、私は帰るわけにはいかないよ。大事な人を危険に晒すくらいなら、ずっと会えない方がマシだ」
そう言って、あやめは立ち上がろうと足に力を入れた。
「ごぜ――…」
言いかけた単語を飲み込んで、朱羅は歩み寄り少女に手を貸す。
差し出された手を素直に取って立ち上がり、あやめは顔を上げて少し笑う。
「あやめで良い。一度は棄てた名前だけど、やっぱり私に他の名は合わないから」
一瞬間を置いて、赤い鬼が頷いた。
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