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遥か昔から仕えてきたが、主をその名で呼んだ事などなかった。
命ぜられれば従う他ないが、果たして良いものかとの躊躇いがある。
その胸の内を見透かしたように少女は続けた。
「呼んでみて、朱羅」
「今…ですか?」
「そう、今」
普段表情を変えない青年が、珍しく少し困った様子を見せる。
しかし、ふいに何かを思いついたように頷いて、少女の顔に視線を戻した。
「では、代わりに一つお願いしても宜しいでしょうか?」
「―――?」
あやめは無言で続きを促す。
「私がそうお呼びしたら、下で一緒に食事を摂っていただきたいのです」
「……でも、」
今度はあやめが困った顔をした。
本当は人間の食べ物など口にする必要のない朱羅が「一緒に」などという。
それは自分を気遣っての事だと、あやめにも分かった。
とはいえ、本当に何も食べる気になれないのだ。
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