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生きることを拒絶しているわけではない。
――ただ、思う。
これから秋人に会うことは二度とないのだと。
あのマンションで二人過ごした日々には決して戻れないのだと。
この先に何があるのか分からない。
自分の過去についても多くを思い出せない。
ただ一つ分かるのは、自分の未来に秋人の姿がないということ。
「死にたいわけじゃない…ただ、分からないんだ」
あやめはポツリと呟く。
「食べて、飲んで、息をして、そうやって生きていってこの先何があるのか。いつ、他の鬼に見つかって殺されるのか」
黙って佇む赤い鬼の静かな瞳を少女は見上げた。
「私はいつまで逃げ続ければ――…」
言いかけた言葉は、そこで途切れた。
ふいに引き寄せられたかと思うと、抗う間もなく、あやめの体は朱羅の腕の中にあった。
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