邂逅の柩

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振り返れば、最初は気まぐれだったのかもしれない。 取り立ててやる事もない。 目的もなく生きる毎日に嫌気がさしていたから、突然訪れた変化を心のどこかで楽しんでいただけかもしれない。 決して全てが優しさに裏打ちされた行為ではなかったように思う。 けれども続けているうちに、心の底から少女を慈しむようになっていった。 少女に対してだけではない。 季節が巡り一年が経つ頃には、刀祢の「演奏会」の観客は驚くほど増えていた。 どこで聞き付けたのか、夜になるとひと時の安らぎを求めて、周囲をさ迷っていた魂魄たちが音楽室へ集まるようになっていたのだ。 それらの全てを刀祢は愛おしく思うようになり、自分の中に起こったそうした変化を快く感じながら、日々は穏やかに過ぎていった。 ---そう、あの日までは……。  
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