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「心配しなくていいわ。大人しくしていてくれればすぐに済むから。ただ、あなたは私の中でずっと眠っていてくれれば良い。そして、その力を私に貸して」
少女が歩み寄り、間を詰める。
(どうすれば良い…?)
冷汗が頬を伝う。
少女の手を離れた呪符が、刀祢の周囲を取り囲む。
「鹿江……本当にいいんだね?」
「…うん」
少年は隣の少女と短い問答を交わした後、困惑の色をその顔に浮かべたまま、すばやく印を結んだ。
「御霊(ミタマ)はその者に依りて一つなれど、この呪(シュ)に従いてまずその器を離れ、言の葉に付いて次なる器に服せ」
「……っ!!」
助けて--と言いかけた言葉を刀祢は飲み込んだ。
誰が自分を助けてくれる?
頼るべき仲間など、どこにもいないというのに。
救いの手など…どこにも……
《何かあったらいつでも私を呼ぶといい。紫月に代わって、私がそなたを助けよう》
ふと、遠い昔に聞いた言葉が頭をよぎった。
凛とした美しい少女の、少し悲しげな面影が浮かんで消える。
(……御前…)
かつて恋人がそう呼んで仕えていた、鬼の姫君。
知らずに刀祢は叫んでいた。
「御前…!雪花御前っ!!」
体がまばゆい光に包まれていく。
目の前が黄金色の輝きに覆われていく。
そして--もう、何も見えない……
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