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◇ ◇ ◇
「とね……刀祢……」
--優しい声。
母のような慈愛に満ちたその声は、けれども随分と年若いように感じられる。
「刀祢…起きて。一緒に帰ろう」
(帰る……?どこへ…?)
瞼が重くて、目が開けられない。
自分を呼ぶ声に聞き覚えはあったが、誰なのか思い出せない。
「私と一緒に地上へ帰ろう。あなたを待ってる仲間もいるんだ。ほら、目だってもう開けられる」
少女にしては少し低めの中性的な声は、ひどく心地良く胸に響く。
「遅くなってごめんね。ずっと呼んでくれていたのに…待たせてごめん。でももう、大丈夫だよ」
急に瞼が軽くなったようだ。
隙間から、柔らかな光が差し込んでくる。
光の中で、見た事のない少女が優しげに微笑んでいた。
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