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見覚えのない顔なのに、刀祢は彼女を知っていた。
「御前…」
「うん」
それは、遠い昔に会った事のある鬼の姫ではなかった。
ただの、普通の人間の少女で……けれども間違いなく、かつてと同じ魂の光を感じるのだ。
「御前」
もう一度呼ぶと、何故か頬を涙が伝った。
「……御前……御前………」
繰り返し名を呼ぶ刀祢を、あやめは引き寄せ抱きしめた。
「待たせてごめん。寂しい思いをさせて、ごめん」
誰かに、こんなふうに抱きしめられたのは、どれくらいぶりだろうか。
こんなふうに、他の人間の温もりを感じられるのは、一体いつ以来だろう。
涙など、ずっと忘れていた。
寂しさもずっと殺してきた。
何も感じないよう、心に蓋をしてきた。
その全てが、温かい腕の中でほどけていく。
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