邂逅の柩

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ふと、彼女とは違う誰かの手が刀祢の頭を撫でた。 上げた視線の先には、そこにあるはずのない、とうに失われた恋人の微笑みがあった。 「……久しぶりだね」 「……しづき……?」 「ああ」 「……うそ……。な…ぜ………」 これは、幻だろうか。 だとしたら、なんて優しくて残酷な幻だろう。 どんなに会いたいと願っても会えず、その声を聞く事すら出来なかった。 誰よりも愛しい人。 幻でなくば、ここは天国か。 「刀祢、今まで一人で辛かったろう。私が、君を生かしたいと願ったばかりに…、その我が儘の為に、長い間苦しめてすまなかった」 この優しい声は、温かな掌は--- 「紫月…っ!!」 想いが関を切り、飛び付くように刀祢は紫月の体を抱きしめた。
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