599人が本棚に入れています
本棚に追加
紫紺の闇に浮かぶ月が、カーテンの隙間から淡い光を射し入れて、あやめの頬を照らしていた。
滑らかな白い肌が、一層青白く透き通って見える。
長い睫毛にも形の良い唇にも全く文句のつけようが無いが、それは決して健康的な美しさではない。
以前より肉の落ちた頬や細い手足には、病の陰りにも似たものが感じられた。
―――ギィッ
寝室の扉が開き、涼しい風と共に一つの影が入り込む。
足音を立てずに長い影が移動すると、ベッドがギシリと軋んだ。
頬に触れた手の感触に、あやめの瞼がピクリと反応を示す。
「…だれ……?」
少しだけ瞼を持ち上げるが、その姿は闇に紛れていて区別出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!