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刀祢の瞳から溢れる涙が、紫月の着物を濡らす。
--と、だんだんにその姿が薄くなり始めていった。
「もう、時間だ」
紫月は少し淋しげに呟き、刀祢の額に口づけを落とした。
「君がこの不思議な術式に囚われて眠りについた事で、君の一部となっていた私の魂は、こうして一時だけ形を取る事が出来た。君が目覚めた今、私はまた君の中に戻る。次に会う時は、君が役目を終え、全てのしがらみから解放された時だろう」
それ即ち、死するとき。
刀祢もまた淋しげに微笑んで、ずっと昔にそうしていたように、紫月を優しい眼差しで見つめた。
「…まだ、駄目なのですか。もう千の時を生きたのに、まだ、あなたに会うには早いのですか」
「ああ、まだ…君に頼みたい事がある」
そうして紫月は、つと、あやめに視線を移した。
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