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静まり返った冷たい夜気の中、3人の男は沈黙を守り、少女の帰還を待っていた。
腕の中で力をなくした肢体を己の片膝にもたれかけさせ、朱羅はいつもと同じように、彼女の頬をひと撫でする。
--愛おしそうに。
その所作の一つ、視線の一つで見る者は気付くだろう。
この鬼の、少女に対する深い想いに。
「君は……」
秋人は沈黙を破り、問い掛けた。
「君とは以前会ったな。あやめの事を主だと…確かそう言っていたが」
ただそれだけの間柄とは思えなかった。
「……君は、あやめの何なんだ?」
朱羅がゆっくりと視線を上げる。
「この方にとっての私の存在意義など、そんなものは私にも分からない。人の気持ちなど、分かるはずもない。ただ分かるのは……」
真っすぐに秋人を見据える赤い瞳は、闇夜の中でただ静かに輝いていた。
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