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「分かるのは、自身の胸の内だけだ。この方を、誰にも渡したくはないと…、もう二度と失いたくはないという、その想いだけだ」
「………」
あまりにもはっきりと朱羅が気持ちを口にした事に、秋人はおろか、宗一でさえも驚いていた。
「御前は……あやめ様は、いまだ迷いの中におられる。鬼として目覚め、己の業を思い出し、迷惑をかけまいとそなたの元を離れたのであろうが。けれどそのお心の内には、いつでもそなたの姿がある」
それに気付いていたからこそ、朱羅はあやめがこの屋敷へ来る事を許したのだ。
おそらく秋人に会う事になると、承知した上で。
「私の側にいてお心が晴れぬのであれば、そなたの元へ戻すべきかとも考えた。が---、やはり渡したくはない」
あやめの肩に置かれた手に、知らず力がこもる。
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