599人が本棚に入れています
本棚に追加
/334ページ
「私は、もう二度と同じ後悔をしたくはない。二度と--…」
赤い鬼が呟いた、その時だった。
【……朱羅…】
何処からか、彼の名を呼ぶ声が響いた。
【……朱羅……朱…羅…】
「--御前!?」
その声は確かに、彼の最愛の主の呼び声だった。
空気の震動により聞こえる音ではない。
「あやめの声が、聞こえるのか?」
秋人の問い掛けに、朱羅は顔を上げて二人を見た。
「…聞こえぬのか?」
「聞こえないよ、全然」
宗一が肩をすくめて見せる。
だが、気のせいではない。
聞き間違えるはずがない。
「御前が、呼んでおられる」
【朱羅……応えて。私を、呼んで…】
「はい」
彼の腕の中、眠るあやめの唇は動かない。
けれど間違いなく、彼女が自分を呼んでいる。
呼ぶ声が、聞こえる。
最初のコメントを投稿しよう!