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◇ ◇ ◇
瞼の向こうのほの明るさに、あやめは朝の訪れを知った。
体がけだるく、力が入らない。
起き上がらずに、目だけ開けてみる。
チュンチュンと雀のさえずりが聞こえた。
網戸からそよ風が入って、真白いカーテンを揺らす。
窓辺に飾られた花瓶の花も、同じように黄色い花弁を揺らしている。
朝の目覚めには相応しい光景。
なのに、あやめの気分は優れなかった。
―――コンコン…
扉がノックされ、美しい銀髪の青年が中へ入って来た。
流石にそのままでいるわけにはいかないと、彼女は上体を起こす。
「朝食の用意が整っておりますが…ご気分がよろしくないのでしたら、こちらへ運ばせていただきます」
あやめは首を横に振る。
「ごめん。食べたくないんだ」
「ですが、このままではお体を壊されます」
朱羅が心配そうに表情を曇らせた。
無理もない。
ここのところずっと、まともに食事を摂っていないのだから。
食欲が全くと言って良いほど湧かなかった。
我慢して飲み込もうにも、体がそれを受けつけないのだ。
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