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昼ご飯だけの約束が、結局愛由美の二人目の姉、麻由美も和希に逢いたいと言うので、行きつけだと言う寿司屋に行った。
麻由美の家族と、由美子の主人も合流し、達也はなんだか上機嫌で店主に和希を「お婿さんなんですよお」と紹介していた。
由美子の主人が運転する車で、福岡まで戻る。
福岡のホテルに戻った室内で、和希は愛由美をベッドに座らせた。
「私、怒ってるんだからねっ」
愛由美は上目遣いに言う。
「勝手に会う約束してたことか? そうでもしなきゃ、いつまでも会えなそうだったしな」
「福岡に行きたいなんて言われた時に気付けばよかったよ!」
「そうだな、愛由美が間抜け過ぎる」
「もう……っ! それに! 外交官になりたいだなんで、初耳だよ!」
「誰かに話した事もないんだから当たり前だろ。別に夢のある仕事じゃないし」
「そんな事、ない。お父さんの背中追いかけたいって、素敵な夢だよ」
「自分は嫌なくせに?」
愛由美の家族は教師一家だ、自分だけ教師にはならないと言う選択肢は、なかっただけだ。
「私は、向いてないからなりたくなかっただけで……でも、外国に一緒に来いなんて話は、まず私にして欲しかった」
「まあ、遅かれ早かれだろ」
「もう! そうやって、いつも自分勝手に……!」
殴ろうと振り上げた手を、和希はそっと握り締めた。
そしてスラックスの後ろポケットから何かを取り出し、愛由美の左手の薬指にはめた。
「え……っ」
見間違えようのない、大きな一粒ダイヤモンドが入ったリングだった。
「これ……!」
「婚約指輪」
石が輝く指輪を、愛由美はじっと見つめた。
嬉しそうにはにかんでいたが、まもなくむっと眉をひそめた。
「……こういうのってさ、箱に入ったまま渡して「開けてみて」って言うのが雰囲気あっていいんじゃないの?」
「そうしたらお前の事だから、開ける前に突き返してきそうだと思ってさ」
「だからって、ポケットから直接って」
「箱のまんま入らないだろ」
「そうだけどさ。なんか嫌」
怒る愛由美の指輪のある手を取り、そっとキスをする。
愛由美は嫌でも心臓が高鳴る。
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