トンネルに棲むモノ

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この時は心霊スポットが怖いというより、崖から落ちたらどうしようという恐怖の方が勝っていた。 「運転手頑張って。」 呑気な麻紀は自分の置かれている状況が分かっていないのか、原田と一緒に多賀を応援していた。 濃い霧が風で時々薄くなると少しスピードを上げ進む。たった数百メートルの距離に10分以上かけた。 霧の中にトンネルが口を開けて見えてきたのは、すぐ目の前についてからだった。噂通り入口の右側に手押し車が放置されていた。 「これってやっぱりヤバイって。」 口々に聞いたことのある噂を話し始めた。手押し車があったことで、一気に噂の信憑性が高まった。一旦、入り口で停車して外から中を伺うが電灯もなく暗い穴があるだけで何も見えない。 誰も車から降りて確かめる勇気なんてないのだ。会話がなくなった車内で流れるロックが私たちの場違いさを引き立てているようで余計に怖かった。
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