トンネルに棲むモノ

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「うわっ。落ちたかも。」 慌てて多賀は車から降りた。原田は外から腕をバツにクロスさせてこちらへ見せた。右後輪が脱輪してしまった。夜の霧で視界はほとんどない。ヘッドライトの周りだけ白く光っているような状態だ。枝に気を取られ過ぎて、車がだんだん崖側に寄っていたのに気が付かなかったのだ。 運転席の後ろにいた麻紀がドアを開けると地面がない。車は斜めに向いて右後輪を落としていた。 多賀を運転席に残して3人で後ろから押すことにした。アスファルトがない場所はぬかるんで、スニーカーが埋まっていく。 新しいスニーカーが汚れ、車を押したことで汗が流れる。こうなると腹立たしいだけだ。さっさと引き上げて国道まで下りてもらいたい。 文句を言っても仕方がないので、協力して車を上げる手伝いをするしかない。 2回アクセルを踏んだ時、後輪がアスファルトに乗った。汗が額から落ちてくる。靴もドロドロだ。このまま乗るのは気がひけるが原因は彼だ。それに靴の汚れを落とす術もないので、ごめんと断って乗り込んだ。 「ごめんな。ありがとう。後でジュースでもおごるよ。」 割に合わないが、わざとにしたことではないので頷いた。
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