sprinkle

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今日は久しぶりに、ちょっと早めの退勤だ。 とはいえ定時を一時間ほど過ぎているけれど、そのことに対して、文句はない。何せここ最近は残業続きで、部署でひとり取り残されることも決して珍しくなかった。しかし、ようやくずっと抱えていたタスクが片付いたので、せめてまた忙しくなってしまう前に、早く帰れる日は早く帰ってしまおうと思ったのである。 まあ、今日も結局、この部署では一番最後の退勤だけど……と思いつつ、わたし―柴崎沙友里(しばさきさゆり)―は、いそいそとデスクの上に広げたデザインラフやペンを片付けて、退勤の準備をし始めた。余計な電話やメールが来る前に、ヤバくなる前に逃げないと。そのことは、今の部署に来て身を以て知った処世術でもあった。 まあ、そんな時に限って「そういうこと」は起こり得るものであり、わたしのデスクの上の電話が「プルルル」とやかましい音を立てたのは、わたしが机の上をあらかた片し終えた時の出来事だった。 なんやねん、あともうちょいやったのに。大学進学と同時に地元を抜け出したのに、未だに全く抜けない大阪弁で独り言を呟きながら、わたしは受話器を取った。
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