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とても重大な責務を負わされた気がした。
けれども、ここまで来たらもう引き返そうとは思わない。
僕は由也の顔をしっかり見据えると、こくりと大きく頷いた。
すると彼は、少し安心したように、ゆっくりとした口調で淡々と話し出した。
「妹は、両親の自慢の娘だった。可愛くて、頭も良くて、誰にでも優しい。だから、中には勘違いする奴もいてさ。『この娘は自分の事が好きなんだ』って。そいつには彼女がいたんだけど、その彼女が突然別れを切り出されて逆上したらしい。『全部お前のせいだ』って、学校の科学室から薬品を持ち出して、それを妹の顔に……」
その話を聞いて、僕は背筋が凍り付いた。
一時の嫉妬心が、こんなにも悲しい事件を引き起こしてしまったのかと。
「その子も酷く後悔していたよ。激しく自分を責めて、自殺未遂までした」
誰もが心と体に傷を負った。
そんな痛ましい出来事があったと言う事実に、僕は涙が滲んだ。
「父さんも母さんも、そんな妹から逃げたんだ。だから、この家には俺と妹の二人だけ。妹は学校も辞めてしまったから、実質俺がいない間は、この広い家にたった一人きりだ」
「え、じゃあ……」
だとしたら、僕は彼女に対してとんでもなく申し訳ない事をしていたのではないだろうか。
この所はずっと、この家に来訪しては彼女の兄を僕は独り占めしていた事になる。
彼女を更に孤独へと追い込んでいたのかと思うと、心から罪悪感でいっぱいになった。
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