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僕は一人、結菜の部屋の前に立った。
すう、と息を吸い込み、少し震える手で目の前のドアをノックする。
「……どうぞ」
初めて聞いた彼女の声。その声もまた震えている。
緊張しているのはお互い様だと思うと、自然に気持ちが軽くなった。
ドアを開けると、そこには女の子らしく可愛い空間が広がっていた。
その中心で、こちらを振り向けずに立ち竦む少女。
腕には、大きなウサギのぬいぐるみが抱えられている。
「初めまして、結奈ちゃん。夕べはその、毛布を掛け直してくれてありがとう」
その言葉に、彼女はビクリと反応した。
「夕べ、見たん……ですよね、私のこちら側の顔を。ごめんなさい、化け物だと思って驚いたでしょう」
化け物――
自分の事をそんな風に揶揄する彼女に、僕は思わず悲しくなる。
当たり前だが、結菜の劣等感は半端ないもののようだ。
「そっちへ行ってもいいかな? 君と面と向かって話がしたいんだ。僕がずっとここへ通い詰めたのは、それが目的だったんだから」
「でも、それは私がこんな顔だと知らなかったからでしょう? どうしてもと言うのなら、半分だけ……」
そう言って、彼女はゆっくりと振り返る。
そこに現れたのは、半分をウサギのぬいぐるみで隠された、もう半分の美しい顔。
あの日、僕はこの花の顔(かんばせ)に一瞬で心奪われた。
けれども……
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