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男は末期ガンだった。余命半年だと宣告されたのが、約半年前のこと。さすがにもう体調は酷く、病院のベッドに縛り付けられているような状態にあった。
年齢は、先日八十歳を迎えたばかり。それなりに生きたと言えるだろうが、残念ながらその内容に関しては、幸福とは言い難いものだった。特に何か悪いことがあったというわけではない。ただ、何もなかったのだ。一言で言えば、空っぽな人生。
見舞いに来てくれるような友人も家族もいない。過去を振り返っても、楽しく浸れるような思い出はひとつもなかった。今となっては、後悔ばかりがよぎる。せめて最後くらい何か、と思っても、言うことを聞かない身体ではどうしようもなかった。
結局、これが天命と受け入れ、大人しく死を待つばかりの日々が続く。
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