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「……そうか。いよいよ俺にもお迎えが来たわけだな」
男は状況を素直に受け入れ、一言だけ呟くと、大きく息を吐いて目を閉じる。
死の宣告など、今さら驚くことではなかった。すでに医者から告げられ、とうに覚悟はできている。むしろ、空っぽであることを恐れていた男にとっては、この意外な結末は悪くないものですらあった。
ところが、そんな男の覚悟を裏切るように、死神は首を横に振る。
「いえ。正確に申しますと、あなたの寿命が尽きるのは、明日の夕方頃の予定です」
「……何だ。ご親切にも、わざわざ予告をしに来たのか? それとも、まさか看取ってくれるとでも言うのか?」
男が呆れたように皮肉で返すと、死神はまた首を横に振った。
「いえいえ、もっと大事な用件がありましてね。実は、あなたに取引のご提案があってお伺いしたのです」
「取引?」
聞き返す男に、死神は「はい」と頷くと、それからさらに一歩前へ出て言った。
「いかがでしょう? 今一度、若さと寿命を手に入れてはみませんか?」
死をもたらすと思われた死神から、思いがけず持ち掛けられた真逆の提案。男は驚きを隠せずに、思わず身を乗り出した。
「何だって? 本当にそんなことができるのか?」
可能であるならば、望まないわけがない。特にこの男にとっては、空っぽな人生を埋めることができるかもしれない、大きなチャンスだ。
はやる気持ちを抑えられず、男が詳しい説明を求めると、
「まずはお聞きください。順を追って説明いたしますので……」
と死神は応じ、ゆっくりと丁寧に、その内容について語り始めた。
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