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「現在、あなたは八十歳になりますが、まずはその年齢を半分にして差し上げます。つまり、四十歳ですね。すると、結果的にあなたの寿命は、四十歳から八十歳までとなり、すなわち四十年に増えるわけです。私としましては、その増えた寿命の半分、二十年を、代価として頂ければと思っております」
死神の説明を聞き、男は首を傾げながらも頷いた。
「うむ、少しややこしいが……。つまりは、二十年の寿命を支払えば、四十歳に若返らせてもらえるというわけだな。それで俺は六十歳まで生きられると……。確かにそれなら、残り一日の寿命が二十年に増えるわけで、こちらとしても損はない。間違いないんだろうな?」
「もちろんですとも。死神は嘘をつきません。これは正当な取引でございます」
相変わらず死神は、常に笑みを絶やさず、ほとんど表情も変えない。それがかえって本性や感情を隠しているようで、男には不気味に感じられた。何を考えているのか、まるで分からない。駆け引きではとても勝てるような気がせず、危険なゲームであるようにも思えた。
しかし、そうは言っても、選択肢は有って無いような状況。やがて男は、覚悟を決めたように頷く。
「まあいい。どうせ放っとけば明日尽きる命だ。受けて立とうじゃないか」
「賢明なご判断です」
死神はにこやかに言う。それから、男のそばへ歩み寄り、何やら呪文を唱え始めた。すると、男の身体には、すぐに変化があらわれる。
まるで早戻しの映像でも見ているようだった。男の肌からは、みるみるシワが減っていき、色艶は増していく。近くに鏡がないので本人には分からないが、顔における変化は一段と顕著。頭も黒々としてきて、感覚的にも男はその変化を実感した。
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