死神の商売

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 そして、死神はまた呪文を唱える。今度は見た目にこそ大きな変化はなかったが、男自身にはその違いがはっきりと自覚できた。先程よりもさらに身体が軽く、気力がみなぎるのを感じる。今更になってようやく、自分がどれだけ悪い状態にあったのかが分かるようだった。  そう考えると、十年という代価も、仕方のないことであるような気もしてくる。 「まあ、明日死ぬはずだったのが、若返って十年生きられるようになったんだ。しかも、健康に関しては何の悩みもない。ああ、そうとも。前向きに考えることにしよう……」  眉間にしわを寄せながら、自分に言い聞かせるように言う男。その横で、死神は何か言いたそうにたたずんでいた。 「何だ? まだ何かあるのか?」  男が不安そうに尋ねると、死神はにこりと頷く。 「ええ、まあ。あなたは突然六十歳も若返ったわけですが、一体どこのどなたということになるのでしょうか?」  男はハッとした。 「そうか、その点を考えていなかった。確かに今までの身分は使えないな……」  本当のことを話したところで、誰も信じてはくれまい。仮に信じてもらえたとしても、大騒ぎになって、それだけで十年などあっという間に過ぎてしまうだろう。  新たに生じた厄介な問題に、男は頭を抱える。すると、死神はどこか嬉しそうに言った。 「そこで、いかがでしょう? また寿命半分で、その辺りのこと、うまく改ざんなどいたしますが?」 「冗談じゃない! そうしたら、残りはたったの五年だぞ。それに次から次へときりがないじゃないか。まさか、まだ他にもあるんじゃないだろうな?」  青い顔で叫び散らしながら、男も薄々は気付いていた。確かに死神は嘘をつかないのだろう。しかし、ここへやってきた目的は、言わば商売だ。そしてこういうやり口は、人間の社会でも珍しいものではない。
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