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今朝、部屋の窓を開けたら空気が変わっていた。
まだ暑いけれど、少し秋の気配が混ざっている。
すっかり慣れた手順で、着替えて、水を一杯飲んで、玄関でウォーキングシューズに足を入れる。
大好きな、あの日のピンクのスニーカー。
好きな物を身につけて、大好きな人に会いに行こう。
UVカットのパーカーのポケットには、小さな鍵が入っている。
角田の、部屋の、鍵。
つき合い始めて驚いたのは、工学男子の大学滞在時間の長さ!
家に居たって、角田はしょっちゅうパソコンに向かって、持ち帰った細々とした作業をしている。
ちょっと引いた私に、角田は部屋の合鍵を渡して言った。
「ごめん、俺、あみちゃんに淋しい思いさせそうだ・・・たから、いつでも、来てね」
驚く私に言い募る。
「朝でも、夜でも、いつでも。俺がいなくても、自分ちみたいに過ごして・・・くれたら、嬉しい、デス」
ちょっと、最後に照れないでよ。
私まで、一緒になって照れちゃうじゃないっ!
よっちゃんに話したら、バカップル決定だなって思いながらも、嬉しかった。
それから、気が向くと、ウォーキングで角田の部屋まで行くようになった。
私の家からだと私鉄を乗り継いで行く角田の部屋は、歩くと30分くらいで着く。
朝の新鮮な空気を吸いながら、連絡もしないで行っても、角田はいつも嬉しそうに笑ってくれる。
寝ていたり、徹夜していたり、たまに大学に泊まり込んでいなかったり・・・その一つ一つが、楽しい。
今朝はどうかしら?
ピンクのスニーカーを履いた足取りが軽くなる。
朝日に照らされたアスファルトの道。
この道は、真っ直ぐに、あなたへと延びている。
私は、あなたの元まで、歩いていく。
完
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