第1章   のらたまドクターの落書き帖 --- 時計台と黒猫

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      事件の発端は、落書き帖のページ半分とそれに続く二ページばかりがむしり取られていることであった。  それも、八年前に書かれた「落書き」の部分である。  落書きといっても、そこいらのニンゲンどもが書き散らす落書きとは意味が違う。  猫社会では、“のらたまドクター” と云えば、通称、ドクターと呼ばれ、既に十八才をすぎた高齢ながら、いや高齢だからこそ、その知識と経験に敬意を払われ、時には、その一言一句が金科玉条として、守られてきている、著名なリーダー的な存在である。  十八才といえば、ニンゲンの年齢では八十才を超える。  のらねこのタマが猫社会における文字の知識、猫語を習得した二才以降、「落書き帖」は、ほとんど途切れることなく、毎日書き記されているらしい。書き貯めた落書き帖は十数冊とも数十冊ともいわれる。猫社会の歴史、猫の存在意義と理念、そして来るべき猫による地球の統治問題、言葉を変えれば、猫による地球征服への道筋が書かれているとされている。  猫社会で指導的立場に立とうという猫は、必ず目を通さねばならぬバイブルといわれている。 現在、読むとすれば、ドクターの私的図書室で、目を通す以外にないわけだが、やがて、猫語の印刷機能が確立されれば、真っ先に印刷され多くの猫たちの目にふれることになろう。  
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