第1章   のらたまドクターの落書き帖 --- 時計台と黒猫

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 猫社会の慣例に従って、のらたまドクターを単にドクターと呼ぶことにするが、さすがに歯も抜けて、柔らかいものしか口にできないらしい。 それにもかかわらず、スポンサー(ニンゲン社会では上目線で飼い主ともいう)の “にいさん” の面倒見が良いのか、毛並みはつやつやしていて、言葉もはっきりしており、何より、頭の回転が全く衰えていない。 (注)ちなみに、“にいさん”とは、猫語を少しでも勉強された方ならばお分かりと思うが、猫語で「にいさん」或いは「ねえさん」は、猫以外の他の種族、主にニンゲンになるが、彼らに対する若干敬意を込めた呼びかけの言葉である。  そのむしり取られたページ以外の部分には、次のようなことが書かれている。参考のために必要と思われる個所を取り出してみる。  八年前に何が起こったか、懐かしさよりも、時代がまったく変わっていないことに驚くことだろう。   『にいさんから内部被曝の情報を頂く。一応、全員が目を通せるように、メールで送ってくれるようにお願いしておいた。  にいさんはまじめな人だから、頼まれたことはきちんとやる。 情報の内容も間違いないと思う。それはそれで役立ててもらいたいのだが、今度の原発事故では、ニンゲン社会は想像以上の混乱だ。原発は安全、安心で押し通してきたものだから、まったく何の備えも出来ていなかった。うちのフクシマ支部にも、電力会社の受け売りのような情報を流すヤツがいたけれど、今度の総会で、きっちりけじめをつけさせないと駄目だ。  けじめの程度について・・・。  ニンゲン社会のような、誰も責任を取らないといった、恥ずかしい真似は絶対にしたくない。皆の意見を聞いて決めることになるだろう』  八年前、ツナミとフクシマの原発事故で、このシマグニは存立の危機に立っていたのだ。その様子を、この落書き帖が、今更のように思い出させてくれる。  
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