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廃墟となっているマンション跡地は、私たちの密会の場だ。
壁越しに会うのがいつものことで、彼はいつだって私を待っていてくれる。
「やあ、頼子。今日は遅かったね」
「ごめんね、部活が長引いちゃって……」
「今日は、どうだった?」
「いつも通りかな。全然ダメだった」
「真面目にやればいい成績とれるだろう? もっと頑張りなよ」
「はいはい、良成の言う通りー」
ただ話すだけで幸せ。だけど、良成は違う。私に求めてくるんだ。それで満足してしまえば、私を待っていてくれなくなるだろう。
「ところで、頼子。僕のお願い事はどうだい?」
「……ごめんね。まだ分からないの」
「そうか。まあ、気長に待つよ」
そう言って良成は笑ってくれるけれど、笑い声に元気はなくて、寂しそうであるのがはっきり分かる。早くどうにかしたいんだろう。でも、私はまだ、迷っている。答えを出さない内は、この幸せが続くのだから。
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