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僕とネコ先生 1
先生の話をする前に、父のことを話しておくべきだろう。
僕の父は、周りからすれば「お爺ちゃん」の年齢だった。僕が産まれた時の年齢が、丁度70歳。外国船の船長だったので、たまに帰って来ると嬉しかったものだ。
僕の名前は真実の「真」に永久の「久」と書いて、マークと読む。
フランス系の父さんの名前はエタンだし、僕はクオーターで外国人ぽい顔をしているし、キラキラネームと呼ばれる名前の子は僕以外にもたくさんいたので、特にイジられた記憶はない。
先生と出会ったのは、3歳の誕生日だ。
父が、船に紛れ込んだ黒ネコを持って帰ってきたのだ。どうやらフランスからやってきたらしい。僕はその吸い込まれるようなターコイズブルーの瞳に惹かれてすぐに気に入ったが、動物嫌いの母は「私は面倒みないわよ」と言って近寄ろうとしなかった。
とても落ち着いた性格で賢いその黒ネコに僕は「先生」と名付けて、お父さんと一緒に面倒を見ることにした。
先生が普通のネコとは違い、人間の言葉を理解していると確信したのは、父にフランス語を習っていた小2のある日のことだ。餌の時間を忘れて、書斎でフランス語の発音を復唱していると、先生がドアの隙間から部屋に入ってきて、まずテーブルをトントンと叩いた。「おや?どうしたんだ?」と父が訊くと、今度は単語ボードを手で叩いたのだ。「table」。英単語だとテーブルという意味だが、フランス語では「食事」という意味だ。
「そうだ、ご飯忘れてたな。ごめんごめん」
父は笑って先生の食事を用意しに行き、先生は父についていった。僕はフランスのネコはかなり賢いんだなぁと子供心に感心するだけで、それを異常なこととは思わなかった。
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