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La mémoire 2
日本の生活は悪くなかった。母親は動物全般が嫌いなようで近寄ろうとはしなかったが、危害を加えてくるようなこともなく、私を拾った船長と子供はよく餌をくれたし、ノミ取りの首輪にも慣れた。
外に出て地元の野良ネコ(病気で片目が潰れたブチだ)とバトルに発展しそうになったこともあるが、基本的にフランスより平和で、冬の寒さだけは如何ともしがたいが、家にいれば一生安泰という安心感を得られた。
油断したのは、餌の時間を忘れられた時に、思わず言葉を理解できるところを見せてしまったことだ。船長も子供もすんなりと受け入れてくれたが、この能力を人に見せるのはリスキーだ。
フランスでこの能力を恐れられた記憶がよみがえる。
理解してくれる人には披露してもいいが、なるべく隠しておくべきだろう。バカを装っておいた方が、長生きできるというものだ。
もう一つ困ったのは、あれを目撃してしまったことだ。小5になった真久が夏休みに友達の家に泊まりに行った夜、船長と女がキッチンで抱き合っていた。船長は目が炎のように血走っており、女の方は首を少し横に傾けて老人を見つめていた。
「我慢しなくていいのですよ。このままでは人として老衰で死んでしまいます」
「オレは……オレは…………」
船長の口には鋭い牙が伸びており、今にも女の首筋に噛みつきそうな体勢だ。
真久の前では絶対に見せない、化け物の本性を現した船長と、下僕としての口調に戻る女。
同じ人外の者である私は気付いていた。この2人がただの人間でないことに。そして迷った。このことを真久に教えるかどうか。恐らく真久はこの2人の子ではない。しかし、彼らは両親としてあいつを大切に育てている。私も可愛がってもらっている。少なくとも悪人ではないはずだ。
結局、船長は牙を引っ込めて女から離れ、私もまた、その秘密を胸にしまっておくことにした。
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