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僕とネコ先生 2
小学校5年生の秋に、体育祭があった。
澄みきった秋空の下、父も母もビデオカメラとお弁当を持って、応援に来てくれた。
「マークんちは、おじいちゃんが来てくれたの?」
「えっ?」
自分の父親が友達の父親よりも老けているのはよく分かっていた。ただし、他の父親に負けないぐらい体力もあったし、頭も良かったので、引け目に感じたことはそれまでなかった。
ただ思春期に入りかけていた僕は、その時初めて、父を恥ずかしいと思った。
何もない平地で転んだ時に「道路が悪い」と、国土交通省にクレームの電話を入れるという、ある意味、元気が取り得だったお母さんは、僕が思春期に入るにつれて、だんだん口数が少なくなっていった。
父が体調を崩して、看病することが多くなったからだ。
家で休むことが多くなった父とは、色々なことを話した。動物の生態のこと。外国の文化のこと。遥か彼方にある星々のこと。男の子と女の子のこと。
父の知識は幅広く、学校の先生より話が数段上手かった。
身体の事は心配だったけど、僕と喋る時は元気がいいし、嫌いになりかけていた父への感情が再び変化し、尊敬が増すきっかけにもなった。
そして、考えずにはいられなかった。
人はいつか、死んでしまうということを……。
先生は、人間でいうともう百歳は超えているはずだが、相変わらず父のベッドのそばで、病気もせず元気に餌を食べていた。先生ともいつか、お別れしなければならないのか……。
身近な人の死を経験したことがない僕は、想像するだけで悲しく、その悲しみに耐えられるかどうかを考えて、眠れない夜もあった。人は何故、死んでしまうのだろう……。
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