第02章 ルール

1/2
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

第02章 ルール

「我が家を半分こにしよう!」  翌日の朝、啓吾はそう高らかに宣言した。  ピンク色のルームウェアをまとい、ポットにお湯を注いでいた妻の花穂が固まった。 「どういう意味?」 「花穂は友釣りって知ってる? 最近のアユはね――」  啓吾は、昨晩仕入れたばかりのアユの知識を交えて、《縄張り》の必要性を力説した。 「なあんだ。そんなことか」  最後まで聞き終えた花穂が、ダージリンの紅茶が入ったカップを傾けた。 「なあんだ、ってなんだよ」 「離婚話かと思った。財産分与で家をどうするかとか」 「ちっ、違うよっ! そもそも、ここは賃貸だろ」  むしろ離婚にならないための対策なのだ。気恥ずかしいので、本人の前でいうつもりはないが。 「日頃から縄張り意識を持つことで、営業もうまくできるんだよ」  丸重の受け売りである。  花穂が片方の眉を持ち上げた。 「昨日、丸重さんになにか吹き込まれたんでしょ。啓ちゃん、影響受けやすいから」 「うっ」  図星である。  とたんに弱気の虫が這いでてきた。 「率直に、どう思う?」 「ばかばかしいと思う。ただでさえ広くない部屋を半分にするだなんて」 「だよね」  啓吾は肩を落とした。まともに考えれば妻のいうとおりだ。  花穂がため息をついた。 「仕方ないなぁ」 「え?」 「本当は試したいんでしょう? いいよ。それで啓ちゃんの営業成績が上がるなら」 「花穂……」  力いっぱい抱きしめたい。持つべきものはできた嫁である。 「で、どうやって区分けするの? 2LDKの賃貸なんだからそんな広くないよ」  そういえばそうである。考えていなかった。 「リビングと寝室がわたし。ベランダと裏庭が啓ちゃん、ってのはどう?」 「俺、雨ざらしじゃん!」  いまどき、飼い犬でももっと好待遇である。風邪を引いて、営業成績どころではなくなってしまう。 「それなら、部屋をふたつに分けるしかないね」  二本の指を立てて花穂がそういった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!