第03章 不穏な芳香

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第03章 不穏な芳香

「星座占いで運勢が一位だと、啓ちゃん一日じゅうご機嫌だよね」  というのは、まだ結婚する前に花穂からいわれたことだ。  ようするに、自己暗示の影響を受けやすい性質(たち)なのである。  縄張り生活を開始して一ヶ月が経過した。  啓吾は今月に入って、立て続けに二件の契約を決めた。  縄張りを守るために、なんとしても食い扶持を稼がねばという意識が生まれた気がする。契約を迷う相手に、強気な姿勢で挑めた。  まあ……我ながら単純だなあと思わなくもない。  部長からお褒めの言葉を頂戴し、いい気分のまま帰宅の途に着く。  その道すがら、目に入った花屋に寄った。 「おまかせで」  花屋の店員が選んだのは純白のカサブランカ。値段は張ったが、たまにはいいだろう。花という漢字が入る名のとおり、妻は花が好きだ。きっと喜んでもらえるに違いない。  たしかもらい物のワインが半分ほど残っていたはずだ。仕事がうまくいったお祝いをしよう。  だが、家に帰ってきても、妻の姿はなかった。  残業なのかもしれない。  とりあえず花を花びんに挿しておかないと、と啓吾は思った。  リビングにあるクローゼットの横を通り過ぎようとした瞬間だった。  とつぜん、なかからピンクの物体が飛びでてきた。  啓吾は悲鳴を上げた。  飛びのいた拍子に転んでしまう。 「おかえりーっ。あ、花だ」  クローゼットに隠れていたのは、ルームウェア姿の妻だった。  昔からこういう他愛のないいたずらが好きなのだ。そんな子供っぽいところも好きだった。だが、今日ばかりはむしょうに腹が立った。
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