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第04章 虚勢
「葛西くんはずいぶん偉くなったんだね。まさか大切なお客さまとの約束をすっぽかすなんてね」
と、にこやかな部長。
むろん表面上だけだ。
「申し訳ありません!」
啓吾は腰を九十度に折り曲げた。
午後二時から得意先に訪問する予定だったことを、すっかり忘れていた。いつまでたっても啓吾が現れないので、先方から会社に連絡があったそうだ。事務からの連絡で思いだして真っ青になった。急いで訪問したが、担当者はすでに外出したあとだった。
「何個か契約が取れたって、他のところでミスしたらなんにもならないんだよ」
ぐうの音もでなかった。
あれ以来、妻とはぎくしゃくしたままだ。
花穂は領地内でヘッドフォンをかぶっていることが多くなった。ベッドで妻の身体に触れても、「気分じゃないから」といって身をよじられる。以前は契約が取れずに落ち込んだ日も、妻と笑いあえばそれだけで元気になれたのだが……。
精神的に参ってきた。かといって、いまさら自分から「縄張り生活をやめたいんだ」と頭を下げるのもみっともない。
啓吾は深い息を吐いた。
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