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時間になると小柄な警備員が現れた。警備員は客に一礼すると、高さを補うよう台に載ると拡声器を構える。
「まもなくセールが開始となります。みなさま押さず、焦らず、怪我などなさらぬよう買い物をお楽しみください」
警備員は「おあずけ」を命じられた犬みたいな客たちを前にしても気圧される様子はない。目深にかぶった帽子の下から淡々と注意事項を説明していく。
やがてそれを終えると、首からさげていたホイッスルを口元近くに運び構える。
「これよりセールを開始します」
地下会場にホイッスルが鳴り響くと全客が欲望のままに駆け始めた。
イベントを盛り上げるBGMが鳴り響く中、俺は群衆から一歩抜けだし先頭に立った。
だが次の瞬間、背後から足を蹴られ、そのままもつれさせバランスを崩す。
――なっ
立て直す間もないまま大勢の人間に押され、俺は床に倒れてゴミクズのように蹴り飛ばされた。
「くそっ」
他の連中が通り過ぎ、ようやく痛む身体を起こす。
すると先ほどの警備員が俺に近づき「大丈夫?」と、安否を確認する。
物々しい制服を着てるけど、近くで見ると思った以上に小柄だ。成人男性で俺より小さい人はちょっと珍しい。
「セールに来て怪我をしてはつまらないよ」
遠回しに撤収を促してくるけど、それには従えない。
「目当ての品に巡り会えたのに逃す手はないでしょ」
「治療費を払うなら、定価で買ったほうが良いと思うよ?」
「怪我なんてしません。大会も近いですからね」
フランクな警備員の言葉を押しのけると、俺はふたたび戦線めざして駆けだした。
互いに牽制しあってるおかげで、まだ黒のバッシュは残っている。
力比べの不利を覚悟しながらも、俺は人混みに飛び込むと利き腕をそれに伸ばした。
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