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白いボードの天井に2本1セットの蛍光灯。
気がつくと俺は、安物の長椅子に寝かされていた。
体を起こすと、書類をまとめ置きしたテーブルがある。
その向こうには帰り支度をしている警備員が帽子をとり、内に収めたクセ毛を解放していた。
物が雑多に置かれている様子からして、ここはスタッフルームらしい。
「あいたた……」
痛みが引き金となって、事の経緯を思い出す。
再び戦場に舞い戻った俺は、バッシュではなく見知らぬおばちゃんの腹の肉を掴んでしまったのだ。
怒ったおばちゃんは、俺の体を持ち上げると、密集地に投げ込む砲弾にしたのだ。
「気がついた?」
着替え中の警備員が、俺が目覚めたのに気づいて振り返る。
その姿に俺は絶句した。
既に制服を脱ぎ終えた警備員は、白を基調とし、小さな黒のリボンをあしらった可愛いセットの下着をつけている。
成人男性にしちゃ、やけに華奢だと思ったら俺とおなじくらいの女の子じゃないか。
「大丈夫?」
相手は自分の下着姿を隠そうともせずに近寄ると、泣きホクロを携えた気だるそうな瞳でのぞき込んできた。
「えっ、あっ、はい」
突然の事態に焦った俺はそう答えるのが精一杯だった。
だが、彼女はそんな事にかまわずに近くにあった救急箱からカットバンを取り出すと、それを俺の頬へと張り付けた。
「頭を打ったみたいだけど吐き気はしない? 顔がやけに赤いけど熱があるのかな。救急車呼ぶ?」
腰掛けたままの俺に髪をかき分けたおでこが近づいてくる。
「いや、大丈夫……です。それより……その……」
慣れぬ異性の下着姿は目のやり場に困る。
「ああ、ごめん。粗末なものを見せたね」
そう言うと彼女は、ロッカーに戻ってゆったりしたハーフパンツを穿きガーリーな服装に下着姿を仕舞い込んだ。
「僕はこれで帰るけど、もう少しゆっくりしてった方がいい。店長が戸締まりに来るから、それまで居ても大丈夫だから」
着替え終えた少女は、コンタクトを外すと泣きボクロを隠すようにフレームの太い眼鏡をかける。
最後に茶系の衣装に合わせたポシェットを肩から提げると、落ち着いた感じの可愛いコーデだ。
っていうか、こいつって……
「ひょっとして冬見景?」
「そうだけど? 毎日顔合わせてるよな、春野翔」
今頃気づいたのかと言いたげな口調で彼女は言った。
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