人生の半分を。

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彼と初めて出会ったのは、私の身長がまだ彼の半分くらいだった頃。夏の暑い日だった。幼い私はどうしてそこへ連れられたのかは覚えていなかったけれど、後で聞いた話によれば、昔から彼の父親に私の両親がお世話になっているようで、近くに引っ越してきたお祝いをしに会いに行ったとのことだった。 昔の話に花を咲かせる両親とその人を見ても、私は何も分からないし面白くもないし、地面を見つめては蟻を目で追っていたのを覚えている。彼は彼で、最初に軽く挨拶をした後は、何も言わずにそこに立っているだけだった。 「つい盛り上がって外で長話をしてしまったけれど、部屋に上がって行ってくれ」 と、確かそんなことを言ったそのおじさんは、お腹がぽっこりと出ていて、とにかく優しそうな顔をしていた。 私はまだこの状況が続くことを理解し、早くお家に帰りたいと思って母の服の裾を引っ張って抵抗してみたけれど、その手はやんわりと拒否され、行き場を失い背中へと回した。その手と一緒に、帰りたい気持ちも奥へと押し込め歯を食いしばった。 そんな私の気持ちを理解してくれたのだろう。私の手も引かずに言われるがままに部屋へと入って行った両親の背中を見つめる私の手を、彼は優しく包み込んでくれた。 「ほのかちゃん、一緒にお部屋に入ろうか」 最初に行われた会話は、母の後ろに逃げていたし、きちんと聞いてはいなかった。だからこの男の人の声で、とても優しくて穏やかな気持ちになれたことに驚いた。思い通りにもならなくてどうしたらいいのかも分からず何となく不安だった私の気持ちは軽くなり、何だか良い人そうに思える彼を見上げた。被るというよりは被られていた少し大きめ麦わら帽子の下から覗く彼の口元は笑っているようで、もっと顔を上げると三日月みたいな目をした彼が視界に入ってきた。
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