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ヒトはおよそ6年の歳月をかけ、別人へと成り変わるらしい。
わたしを形作る最小単位の細胞が分裂と自壊を繰り返し、6年後には数十兆の部品がひとつ残らず生まれ変わる。
わたしはそれを聞いてひとつの恐怖心を抱いた。子供ながら、自分が自分でなくなることに恐れを抱いていたことを覚えている。
そして、その恐怖心はいつの間にか好奇心に変わり進学先を決めるひとつのルーツになった。
思うように大学に入り、わたしを構成するひとつひとつの謎を紐解いていくことがとても面白く、楽しかった。
しかし、3年の月日でわたしはわたしでなくなりつつあった。
今まで歩んでいた道が、いつの間にかつまらなく見え始めていた。
この3年間で新しく生まれ変わりつつあるわたしはまだ見たことのない景色に心躍らせている。
そう気がついたのは大学3年の2月。
わたしはわたしが分からなくなってしまっていた。
わたしはわたしの好きなわたしでいられるのだろうか。
どちらのわたしか分からない強み、ひとつまみの青春時代。
手土産には物足りないかもしれないけれど。
そして、春。わたしは呼吸を整え、ドアをノックする。
わたしのこれまでの半分と、わたしのこれからの半分は違う道を歩きたがる。
このままわたしが時間をかけ、すべての細胞が入れ替わったものは本当にわたしなのだろうか。
けれども、分裂も自壊もしない本当のわたしはわたしのもっと奥にいて、そのわたしが本当の未来を知っている。
そしてそのわたしこそが、今のわたしであることを。知っている。
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