救世、未だ半ば

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 世界は闇に沈んだように重い空気で満ちていた。遠方の国は存亡の危機に瀕し、近隣の森でも魔物が頻繁に徘徊するようになった。街では誰もが下を向き、村では魔物の襲撃に怯え、同胞の亡骸を抱えて涙をこぼした。  世界は救いを求めていた。  だから私は、旅立ちを決意した。  旅立ちの日、私は王より拝謁を賜った。  荘厳な広間の中で、左右に並ぶ高い位の人たちが私に視線を突き刺す。 「あれが、かの英雄の?」 「娘御ではないか」  初めての王城。遠くに見える立派な姿を見たことがあるだけのそこは、周囲の空気も合わせて居心地の悪い場所だった。品定めする視線が嫌で目立たぬように身じろぎすると、短い嘆息が玉座より漏れた。 「……おもてを上げよ」  威圧感のある声にびくりと身を震わせ、おずおずと顔を上げる。威厳に満ち、野心的な瞳をした若き王は、私の様子には気にした風もなく、周囲に聞かせるように声を作る。 「そなた、救世の旅に出ると嘯いているそうだな」  王は普通に話をしているだけのはずなのに、その声はやたら大きく聞こえた。 「救世、大いに結構。それが王国の栄華期に名を遺す大英雄、その技と力を受け継ぐ末裔ともなれば尚更である。     
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