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救世、未だ半ば
二人掛かりで開ける大扉。その先は謁見の間へと続いている。
兵士の手により、両開きのドアが重たい音を立てながらゆっくりと開く。視界に飛び込んでくるのは真紅の絨毯。それが部屋の奥へと伸びている。大理石の床に白い壁。美しい宮廷が眼前に広がっていた。絨毯を挟んで右手に武官、左手に文官が並び乱れなく立ち並んでいる。広間の最奥には玉座が据えられている。
先導する兵士が止まったのを見て、その場に膝を着く。
「よくぞ、戻った。勇者アリシア」
齢は未だ30に至らぬ若き王。声には張りがあり、かの王に備わる特有の圧が感じられる。
跪いたまま、私はさらに深く頭を下げた。
「おもてを上げよ。堅苦しくする必要はない。今は風通しもだいぶ良くなった」
促しに従って顔を上げる。故郷の国、オリストニアの王を仰ぎ見た。
青の瞳に金色の髪。この国でよく見る男性と一致する特徴だが、それが色の点に限って一致しているという事実に過ぎないのは一目で分かる。虎狼のような瞳が、彼が纏う空気が、苛烈な人物像を想起させる。
旅立ちから3年。久しぶりに見た若き王は、さらに器を大きくしたようだった。
「魔王討伐の報はすでに国、いや世界中に知れ渡っている。各国からも、そなたの偉業を讃える感謝の言葉が集まってきている。そなたには褒美を与えねばなるまい」
王の言葉を受けて私は立ち上がる。旅立ちの時に立った場所。思わず、懐かしむように絨毯を靴底で撫でた。
高い位置にある玉座に腰掛ける王と目線を同じ高さに合わせ、はっきりと言葉を作る。
「私の旅はまだ終わっていません。続く一歩として、この国に戻っきたのです」
誰の耳にも届くようにと、声を広間に響かせる。王の前に立つ非礼を咎める者はいない。確かに、風通しは良くなったようだ。
「道半ばと申すか。魔王を打倒し、人の世が救われた今を未だ道半ば、と」
王が興味深げに笑みを深め、玉座に肘を着く。
一度、目を瞑る。逡巡は最後の躊躇。だけど、それも既に決意を済ませたことを確認するための儀式的な行為に過ぎない。
私は王を見据えた。
「だからこそ、私は救わなかった世界も救う!」
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