第1章

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 高校に入学して三日目の六時限目は、 一年全員での校歌練習だった。  本気で歌っている生徒は一人もいない。 それは、 二五〇人くらいいながら、 さほど体育館内に響かない歌声で明らかだ。  目立つのが苦手で、 容姿も体力も平凡以下の僕は、 三割くらいの力で歌い終わると、 時間の無駄使いにしか思えない授業にこっそりと溜め息をついた。 「お前さあ」  隣に立つクラスメイトが、 突然小声で話しかけてきた。  一度も話したことがない相手に、 僕はビクッと肩を強張らせた。  僕は彼の苗字を二日目で覚えたが、 彼は僕の苗字を知らないだろう。
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